第九回 折々の小謡


  現在、小謡が一番よく謡われる機会は結婚式や披露宴でしょう。しかし、手軽に謡える小謡はもっと色々な場で謡ってよいのです。
 今回は、その場に相応しい小謡を、今までの慣習もおりこみながら、私なりに選んでみました。参考にして下さい。しかし、どの場面どんな小謡を謡わなければならないという決まりがあるわけではありません。その場に相応しい小謡の文句を吟味して自分なりに決めればよいのです。ここにあげた曲以外にも沢山あります。ただ、旧い地域では、この時はこの小謡を謡うという慣習がある場合がありますが、その慣習も根拠がよく分からず、疑問に思う場合があります。
 


◆結婚式・披露宴
「高砂」
   より
 当講座の第五回 よ く謡われる小謡・高」を参照。
 このうち、
小謡1・小謡2・小謡3
「鶴亀」
   より
 庭の砂は金銀の。珠を連ねて敷妙の。五百重の錦や瑠璃の樞。
 しゃこうおの。行桁瑪瑙の階。池の汀の鶴亀は蓬莱山も外ならず。
 君の恵みぞ。ありがたき君の恵みぞありがたき。
 
●「春栄」
   より
 なほ喜びの盃の。影も廻るや朝日影。伊豆の三島の。
 神風も吹き治むべき代の始め幾久しさとも限らじや。
 嘉辰令月とはこの時を言ふぞめでたき。
         (注:嘉辰=めでたい日、令月=めでたい月)
●「玉井」
   より
 長き命を汲みてしる。心の底も曇りなき。月の桂の。
 光そふ枝を連ねてもろともに。朝夕馴るる玉の井の。
 深き契りは。頼もしや深き契りは頼もしや。
●「老松」
   より
 かやうに名高き松梅の。花も千代までの。行末久に御垣守。
 守るべし守るべしや神はここも同じ名の。天満つ空も紅の。
 花も松も諸共に。万代の春とかや千代万代の春とかや。


◆法事

●「江口」
   より
 思えば仮の宿。思えば仮の宿に。心とむなと人をだに。諫めし我なり。
 これまでなりや帰るとて。即ち普賢菩薩と現れ船は白象となりつつ。
 光と共に白妙の白雲にうち乗りて西の空に。
 行き給ふありがたくぞ覚ゆるありがたくこそは覚ゆれ。
●「賀茂」
   より
 年の矢の。早くも過ぐる光陰、惜しみても帰らぬはもとの水。
 流れはよも尽きじ絶えせぬぞ。手向なりける。
●「融」
   より
 この光陰に誘われて。月の都に。入りたもふよそおいあら名残惜しの。
 面影や名残惜しの面影。



◆懐友・同窓会

●「猩々」
    より
 老いせぬや。老いせぬや。薬の名おも菊の水。
 盃も浮かみ出でて友に逢ふぞ嬉しきこの友に逢ふぞ嬉しき。
●「羅生門」
     より
1、ともない語ろう諸人に。御酒を勧めて盃を。とりどりなれや梓弓。
  弥猛心の一つなる。武士の交わり頼みある仲の酒宴かな。

2、しなじな言葉の花も咲き。匂いも深き紅に。面もめでて人心。
  隔てぬ仲の戯れは。面白や諸共に。近く居寄りて語らん。
●「松虫」
    より
 古里に。住みしは同じ難波人。住みしは同じ難波人。
 蘆火焚く屋も市館も。変わらぬ契りを。忍草の忘れ得ぬ友ぞかし、
 あら、懐かしの心や。


◆敬老
「高砂」
   より
 当講座の第五回 よく謡われる小謡・高」を参照。
 このうち、
小謡1・小謡2・小謡3
 (但し、この曲の主題が「相生の松」であるので、老夫婦そろってないと相応しくない)
●「養老」
   より
1,長生の家にこそ。老いせぬ門はあるなるに。これも年経る山住の。
  千代のためしを。松陰の岩井の水は薬にて。老いを延べたる心こそ。
  なほ行く末も。久しけれなほ行く末も久しけれ。


2,老をだに養はば。まして盛りの人の身に。薬とならば何時までも。
  ご寿命も尽きまじき。泉ぞめでたかりける。げにや玉水の。
  水上澄める御代ぞとて流れの末の我等まで。豊かに住める。
  嬉しさよ、ゆたかに住める嬉しさよ。


◆棟上げ
●「弓八幡」
     より
 桑の弓。取るや蓬の八幡やま。取るや蓬の八幡やま。
 誓ひの海も豊かにて。君は船。臣は瑞穂の国々も、
 残りなく靡く草木の。めぐみも色もあらたなる、
 ご神託ぞめでたき、神託ぞめでたかりける。
「高砂」
     より
 四海波静かにて。国も治まる時つ風。枝を鳴らさぬ御代なれや。
 あいに相生の。松こそめでたかりけれ。げにや仰ぎても。
 殊も疎かやかかる代に。住める民とて豊かなる。君の恵みぞ。
 ありがたき君の恵みぞありがたき。
「鶴亀」
     より
 庭の砂は金銀の。珠を連ねて敷妙の。五百重の錦や瑠璃の樞。
 しゃこうおの。行桁瑪瑙の階。池の汀の鶴亀は蓬莱山も外ならず。
 君の恵みぞ。ありがたき君の恵みぞありがたき。
 
●「養老」
     より
 長生の家にこそ。老いせぬ門はあるなるに。これも年経る山住の。
 千代のためしを。松陰の岩井の水は薬にて。老いを延べたる心こそ。
 なほ行く末も。久しけれなほ行く末も久しけれ。


◆花見
●「鞍馬天狗」
      より
 花咲かば。告げんと言いいし山里の。告げんと言いいし山里の。
 使いは来たり馬に鞍。鞍馬の山の雲珠桜。手折枝折をしるべにて。
 奥も迷わじ咲き続く。木陰に並み居ていざいざ。花を眺めるん。
●「吉野天人」
      より
 見もせぬ人や花の友。見もせぬ人や花の友。知るも知らぬも花の陰に。
 相宿りして諸人の。何時しか馴れて花衣の。袖ふれて木の下に。
 建寄りいざや眺めん。げにや花の下に。帰らん事を忘るるは。
 美景に因りて花心。馴れ馴れ初めて眺めんいざいざ馴れて眺めん。
●「田村」
     より
 白妙に。雲も霞も埋もれて。雲も霞も埋もれて。何れ桜の梢ぞと。
 見渡せば八重一重げに九重の春の空。四方の山並自ずから。
 時ぞと見ゆる景色かな。
●「嵐山」
     より
 さながら此処も金の峯の。光も輝く千本の桜の。栄ゆく春こそ。
 久しけれ。


◆宴会
   宴会は様々な目的で開かれますので、いちいちあげられませんが、会の目的に反して
 いなければどんな小謡でもいいでしょう。
  なお、酒席で謡われる小謡を、肴謡(さかなうたい)と言います。



◆閉会・閉式の小謡(附祝言)
「高砂」より  千秋楽は民を撫で。万歳楽には命を延ぶ。
 相生の松風さっさっの声ぞ楽しむ、さっさっの声ぞ楽しむ。
  この小謡は、あらゆる会の終わりに謡って下さい。
 「千秋楽」を「終わり」の意味で使うことがありますが、これはこの小謡が語源です。

では、能楽講座第九回は、千秋楽です。
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